2001年8月 「魚、港、胸騒ぎ!」

我々のロケハンは店探しばかりではない。
今号8月号はそれぞれの港の特色を出すため、メインカットに港の風景写真が必要だった。取材時にどんな写真が撮れるかを下見するため鳥取県・境港に出かけた。
6月×日
港町にはドラマがある。
出会いがあり、別れがある。
「なにしよっと?」
中型船が停泊する夜の境港に、ランプをいっぱい吊り下げたイカ釣り船が1隻。これって電気が点いたら絵になるなあ、と船の周りをうろついていると、背後から声をかけられた。驚いて振り向くと、シャンプーの香り漂う、陽に焼けたマブシイ顔が。むむっ!もしかして、漁師さん? つまりは海の男!「(ランプの)電気はいつ点くんですか?」と、すかさず話しかけると「12時ぐらいに出るからそんときだな。見たけりゃ今、点けてやろうか?」とひらりと身を翻して船へと乗り込んでいく。九州からやって来た彼は、今晩から3日間の予定で紋甲イカ漁に出るという。今は風呂屋に行って帰ってきたところらしい。どおりでシャンプーの匂いがするのね。うっとりそんな話をしていると、あっという間にランプが灯り始めた。
青みがかった白い光が眩いばかりに輝き出し、みるみるうちに一つひとつのライトの灯が光力を増していく。その幻想的な光景に圧倒され、興奮し、ウキウキ話も中断して夢中で記録用の写真を撮った。
お礼を言おうと船へと戻り、しばし漁師さんと語り合う。朴訥とした話し方に人のよさが滲み出ていて大変感じがよろしい。時々はにかみながら、言葉少なに質問に答える姿も海の男らしい。イイ男じゃあないですか。20歳というのがちょっと若すぎるけど、それもいっか。海の男はたくましく、頼りがいがあるハズだから、多少(!?)年下でもいい。
残念であるが、彼も仕事前でいろいろやることもあろうと、涙をのんで失礼します、とあいさつしたところ、
「ちょっと待ってて」と一時奥へ。戻ってきて「ここに送ってよ」とサラリと名刺を差し出す。えっ、文通ってわけ? 若いのに古風なのね。じゃ、私はこういうもんです、よろしく。こちらも名刺を出した。船内から、「○川!」と呼ぶ声がして「それじゃあ、また」と爽やかに去っていった。
「また」と言ったわね、「また」って。それは「また」の続きに、手紙書きますとか、電話します、あるいは会いましょうってことかしら? そのときはちょっと心躍っていたので、もらった名刺をゆっくり見もせず、名刺入れにしまった。
車に帰り、その名刺を見て、ん? △山幸之助? エライ落ち着いた名前だなあって、え? さっき、○川って呼ばれてなかったっけ? それに何、代表取締役? いやいや先輩2人と乗り込むと言ってたんだよ、彼は。社長なわけないよ…。
ということは、これ、ちゃう人の名刺やん、明らかに。
やっぱり得体の知れん女に身元を明かすのは、恐かったのね…。(柏)