2003年9月 

 古民家ばやりであります。京都や奈良では、町家を利用した飲食店が次々にオープンしているし、郊外では古い農家を改装したり、移築したりして店やギャラリーを営むところが増え、人気を呼んでいます。もちろん、わがあまから手帖も、そういう流れの中で、特集を組んだわけですが。
 それにしても。数々の町家レストランを回ってつくづく思ったのは、本当に紹介したいと思う店が、意外と少ないということ。
 古い家屋が醸し出す心地のよさについては、誌面でお伝えした通りなんですが、それは、長年風雪に耐えて生き残ってきた木やモノたちが発するパワーだけでなく、それを感じる側の人が敬虔な気持ち――自然に対する畏怖の心、感謝の心――を持つことで、自然と心持ちが穏やかになるのだと思うのです。だからこそ、そこで食べるものはナチュラルなもの、自然の恵みでなければ、と強く思うわけです。
 なのに、なのに。なんとまぁ、不自然で(例えば冷凍食品とか、添加物の入ったものとか)、美味しくないものを平気で出す店が多いことか。あるいは、がさがさと落ち着きのない接客をする店も少なくないことか……。せっかくの建物が泣いていますよ、と言いたくなる店が多いのにはほんとに閉口しました。
 まぁ、まぁ、悲観的な話はこれくらいにして、笑い話をひとつ。
 それは、京都のとある店でのこと。風情ある通りに建つその店は、築100年余りの町家を利用した建物で、観光客や若いカップルやグループに大人気の様子。格子戸をカラカラと引いて店内に足を踏み入れると、「おいでやすぅ〜」と若い接待係の娘さんがはんなりとした京都言葉でにこやかに迎えてくれる。席について京野菜をたっぷり使った“京都らしい”料理とお酒をオーダーしてしばし待つ。そこでふと、すぐそばの厨房から聞こえてくる会話が耳に入った。
 「ほじゃけん、×××××」「○○○○じゃけーのー」
 あれ? なんか、京都じゃない会話が聞こえてくる…。しかも、どうも一人じゃなくて、スタッフのほんとんどが同じ言葉でしゃべってる…。???
 なんとなく違和感を感じつつも、料理を食べ終え、「おおきにぃ〜」という言葉におくられて店を後にした。
 後日、噂に聞いた話では、そこはとある地方に本社がある会社が開いた店で、京都店をオープンさせるにあたって、本社から精鋭スタッフが集まっていたのだとか。
 まぁ、それはそれでいいと思うんですが、なんだかねぇ。
 人間、歳をとってくると、やっぱり自然体がいいなぁ、なんて思うようになるわけですね。若い頃は、無理もしたし、つっぱったりもしたけれど、だんだんと、そうすることの不自然さというか、バツの悪さが見えてきたりして。
 そんなわけで、今回の「古民家特集」では、無意識のうちに自然体な店を選んだ結果となりました。読者の皆さまにも、「食べるぞ〜!!」と意気込むよりも、「行ってみよーかー」ぐらいののほほんとした気分で使ってもらえれば、担当者も本望であります。(iso)