2003年10月 

ロケハン(下見取材)の鉄則、それは、あくまで“フツーの客”を装って店に訪れることである。
 しかし、これが案外難しい。
 今回の特集は和食。なかでも、いわゆる“割烹”と呼ばれる価格が少々お高い店の特集である。しかも今回のコンセプトが「夜のコース料理の満足度」を紹介すること。当然、ロケハンの時も「2、3品をちょっとつまんで…」というわけにはいかず、コース料理をしっかりいただく必要がある。
 となれば、通常のロケハンのように、1晩に何軒も行くことができないし、1軒あたりの料理代も結構かかる。スケジュールや予算を管理する身。数が打てない分、1軒1軒確実にヒットさせていきたいと自然に肩に力が入る。
 まずは、集まった不確定な情報を入念に調べて、できるだけ確実なものにすることから始める。それから優先順位をつけ、めぼしい店から予約の電話を…となるのだが、ここで少しやっかいなことがある。コースの場合、どの価格帯がその店の本領かというところも実はわかりにくいのだ。いちばん低価格のコースがとにかくお値打ちな店もあれば、「安いのもありますが、素材や料理内容からみると断然6000円のコースがお得です」というところもある。それを見分けるのも、我が使命。予約の電話口で「3800円のコースと5000円のコースの違いはなんですか?」と訊くのはもちろん、「5000円の造りの魚は?焼き物の魚はどんな魚?」、しまいには「ご飯は?」「デザートは?」と質問攻めに。ここで大抵向こうが「ちょっと店主に代わります…」となり、さらにご主人に詳しく訊き込んで…。
 怪しい。まったくフツーの客ではない。私の方はすっかりコースの全容がイメージできて満足するのだが、店は「食べることに必死のなんだかヘンな客が来るぞ」と、これでは身構えてもしょうがない。
 そして、店に行ってからもほとんど無駄口をたたかず、気持ちはすべて料理一点集中。食べるペースもとにかく早いので、これまたちょっとフツーではない。
 後日、取材の申し込みをすると、「あぁ、やっぱり。何か違うお客さんだなぁと思ってたんですよ」と、バレバレなのである。
 内心はたとえ必死でも、もっと自然な振る舞いがあるだろうに。その度に反省するのだが、まだまだ人生修業が足りない身には、難しい課題である。(的)