2004年9月

 巻頭の定食特集。誌面構成も決まり、取材日程も半ばが過ぎたという7月上旬、最後の最後の1軒、魚のおいしい定食の店が決まっていない。焦りと不安のなか扉を開けたのは、心斎橋の雑居ビル奥のとある割烹。ここはずっと過去に誌面で紹介させて頂いて、今も間違いない店として健在と聞いている。お目当てのお昼のお弁当(1500円)に特集テーマの「お得感」があれば、ここで決められるのだけど…。
 目の前に出された2段のお重の中には、キュッと身の締まったお刺身や、アツアツの煮物、焼き物などがぎっしり。そしてなんと、お吸い物にはアワビが。これはまさに特集タイトルの通り「お値打ち定食」! 今すぐに取材申し込みをして、なんなら取材日まで決めちゃえ! なんて意気揚々、食後のお茶をすすりながら「実はワタクシ、あまから手帖の者なんですが…」とご主人に話しかけた。「あぁ〜、ここの開店のときはほんまにお世話になりまして!」。好感触。しかし! 今回の企画趣旨を説明し、是非に取材をとお願いしたところ、ご主人の顔がにわかに曇った。
 「9月に移転するんですぅ…」とご主人。
 「はぁ…」。
 9月といえばちょうど発売期間と重なる。本には古い店が載って、現実には移転後の新しい店しかない、なんて奇妙なことになってしまうのだ。しかし、しかし、ゴールに手が届きかけたものだから諦めがつかない。移転先の住所なども掲載するから、とかなんとか悪あがきをしたものの、ご主人のお返事はノー。「読者の皆さまにご迷惑をかけるといけないから」。あまりの焦燥感からそんなことにも気づかず、無茶をしようとした自分を恥じ、ご主人の男気に感謝しつつ、新店での再会を固く誓って店を辞した。
 今回は残念だったけど、お得なお弁当、新店でまた食べたいなぁ。(白)