2005年9月
 ミナミ特集のロケハンは、「ローラー作戦」で行うことになった。心斎橋を中心としたエリアを4エリアに分け、各担当がとにかく街を歩き回り、目新しい情報がないか探す…といった手法だ。
 私の担当エリアは、南北が三ツ寺筋〜周防町、東西は堺筋〜御堂筋。地図上で見ると狭いエリアだが、飲食店が入っている雑居ビルや食事処が並ぶ路地も多く、地図を片手に1軒1軒を確認していくと、結構な店数がある。全部の店を食べに行く時間も費用もないので、外に出ている品書きなどを注意深く見て特に気になる店をピックアップし、さらに街に詳しい人に聞き込んで、良い評判を聞いた店から下見に行く…ということを繰り返した。
 しかし、気になる店の中には、誰に聞いても「知らへんなぁ」という所がある。ネット検索しても、該当なし。そうなれば、“飛び込み”するしかない。
 小さな路地の奥にある台湾料理店もそんな店のひとつだった。排骨麺、牛肉麺…と書かれた看板が非常に気になるのだが、外から店の中は全く窺い知れず。ならば、入るしかないと扉を開けて、一瞬にして事情が飲み込めた。
 狭いカウンターと2卓のテーブルだけの小さな店。そこにいる店の人もお客さんもすべて現地の人なのだ。私が扉を開けた入った時に注がれた目には、「あれま、迷い子ちゃんが来ちゃった」という同情にも似た意味合いが含まれていた。「間違えました」と引き戻したい気持ちを抑えてカウンター端の空いているスペースに座り、メニューを見ると、これまたすべて現地語。知っている素材名と調理法を頼りに、指さしでオーダーして、ようやく少し緊張がほどけた。
 ネタケースに並ぶ中国野菜やモツ、ぶら下がっている干物、かぐわしい沙茶醤の香り…。そこはまさに台湾の食堂。ミナミで働いているのであろう若い女性客たちにとって、肝っ玉母さん風のママがいるこの店は、憩いの場であり情報交換の場なのであろう。みんなワイワイと喋りながら食事を楽しんでいる。
 さて、料理の味だが、私は非常に気に入った。麺のスープも、揚げ物の素朴さも、台北の屋台を思い出す味。きっとこれからも通うだろう。
 でも、残念ながら取材対象には×。本誌のロケハンのチェック項目のひとつに、「一見(いちげん)でも楽しめるか」というのがあるが、おそらくこの店に来た多くの人が、最初、私と同じように戸惑うはずだからだ。
 扉の奥は別世界。今回のロケハンでは、この店だけでなくいろんな世界を垣間見ることができて(ここに記せないことも含めて)、「これぞミナミの面白さ」と実感した次第です。(的)