2005年10月
秋薫る10月。今月号の第2特集は、ずばり「新 奈良の三ツ星」。三ツ星なんてどど〜んと大きく出ましたが、そのタイトルどおりの魅力的な店のラインナップになっていますので、お楽しみくださいね。
さて、奈良ロケハンのお話。編集部のある大阪から奈良までは、往復平均2時間。というわけで、効率を考えれば(経費的にも!?)、1日のノルマは最低2軒。和食、イタリアン、フレンチ、中華…そのジャンルは様々です。
ロケハン最終日のこと、私とライターさんはまず1軒目のラーメンをぺろりと平らげると、間髪入れずにバスに乗り込み、いざ2軒目の焼酎バーへ。今日でロケハンも終わりだと思えば、足取りも軽やか。バスを降りれば、そこは住宅街のど真ん中です。目指す方向には、ポツンと灯りが。これが“アタリ”なら、まさしく穴場! 最終の店決定で、どんでん返し!? なんて期待を膨らませてドアを開けました。こぢんまりとした店内は、木目調の落ち着いた雰囲気。カウンターの向こうには、30代前半かと思われるご主人がお一人でおられます。
「こんばんは」。
席につき、メニューをぱらぱら。めくってもめくっても、お酒がずらりと並んでいます。これはすごいかも…、なんて隣でライターさんがつぶやくもんだから、ますます期待は高まります。
「じゃあ、×××をください」と早速注文。
「あ、それはないんです」
「あ、ないんや。じゃあ、△△△にしようかな」
「あ、それもないんです」
「ふーん、じゃあ△△△でお願いします」
「その辺りのは、全部ないんです」
「え!?」
…一瞬の沈黙の後、ご主人がぼそりと一言。
「そのメニューは大分前に書いたんで、今はないものも多いんですよ」
じゃあ、そろそろ書き直しましょうよ〜!!と心でつっこみつつも、気を取り直して何があるのかを確認してみると、
「この辺りやったらあるかな…」となんだか気の抜けるようなお返事。結局テンションがた落ちになった私たちは、ひとまずの注文を済ませました。
席からは、カウンターの中と前に置かれた酒のビンが見えています。もちろん、その中からお酒が出てくるものと思った私たち。ところが、ご主人はおもむろにカウンターを抜け出し、ゆっくりと店内を歩き出しました。いずこへ…!?と、思わずご主人を目で追えば、私たちの座っている席の後ろにずらりと並んだ焼酎ビンたちの元へ。店内がほの暗く椅子が高いためか、フロアーにそんなお酒の瓶があるということさえわかっていなかった私たち。よく見れば、カウンターの端っこのほうには、酒を並べていると思われる、隠れ戸棚みたいなのもある。どうやら、この小さな店内の中には、相当の数のお酒が眠っているようです。そして先ほどのご主人、数あるビンの中から一本だけをひょいっと持ち上げました。まるで、人混みの中でも自分の子供だけはすぐにわかる母親のように。ご主人は、なんとも愛おしそうにビンのラベルを眺め、またゆっくりとカウンターの中へ。私たちがすっかり目を奪われていることにも気づかず…。
さっきまで、なんとも頼りなげに見えたご主人が、ちょっと輝いて見えた瞬間でした。メニューと商品は一致していないけれども、メニューに書ききれないほどの酒コレクションが、ご主人の頭の中には整理されている。その情報を、もう少しだけお客さんとキャッチボールしてくださればなあぁと後ろ髪をひかれつつ、今回は見合わせた店のお話でした!(麻)