2006年3月
  大阪で勤め始めて3年半、その前の就職活動を含めても、こんなにキタを歩き回ったのはあとにも先にも初めてです…。
 キタ特集のロケハンを始めたのは、年も押し迫った12月半ば。クリスマスのイルミネーションには目もくれず、私の両目がスキャニングするのは「知る人ぞ知る」風な看板のみ。それにしても町じゅうに、なんとチェーン店の多いこと…。目に飛び込んでくるのはことごとく、関西一円どの駅前でもお目にかかれる看板のみ。駅前再開発が進むおかげで「どーしても今すぐ、何か食べたい!」ときの選択肢は増えたにせよ、「ここ、知ってた?」と自慢できる店がない。この特集、うまくいい店が集まれば“一家に一冊”級のヒットだわ…と今さらながら企画に賛同しつつ、寒風吹きすさぶ梅田の街を何度も道に迷いながらうろつく毎日が続きました。
 そんな中発見したのは、ネオン街のさなかに隠れた名店あり、という法則。妖しげな呼び込みの声が飛び交う街の一角に佇む割烹は、一見居酒屋風な素っ気ない店構えに裏切られ、出てくる料理がまさに割烹! 無口なご主人が供す鯛の造りを口に運んだ瞬間、ああ、日本人で良かった…と思わずため息が。一人用の土鍋で炊いてくれる炊き込みご飯は、昼間のロケハン続きで限界間近の私の胃袋でさえも「喰いたい…」と身をよじらせるほどいい香り。こちらは食べきれない人のために持ち帰り可とのことで、生まれて初めて「おーい、帰ったぞー」の親父さながらホクホクと“割烹のお土産”を持ち帰ったのでした。
 またある時は、妖艶なポスターが所狭しと貼られた「◯◯紹介所」の隣、小さなテナントビルの地下に、美味しいイタリアンをアテに飲めるワインバーを発見。オーナーの趣味のレコードを聴きながら傾けるイタリアワインは、土の香りが芳しく立ちのぼり、暗くて黴臭い田舎のワイン蔵を想像させる逸品。「なぜこんな(失礼)所に?」とオーナーに問えば、「いや、まだ中心部より安いでしょ」との明快なお答え。確かにキタでは「この料理、半分以上土地代では…?」と思わせられる機会が多い中、名高い岡山・Y牧場のチーズを惜しげもなく使ったパスタ料理をはじめ、素材を吟味して丁寧に作られた料理の数々は、数量限定、“少々お時間かかります”も通用するこの立地ならではかもしれないなあと、妙に納得した私でした。
 一連のロケハンで助けられたのは、もはやこの仕事になくてはならない携帯電話。気になる店の電話番号を控えようにも、一昔前の探偵でもあるまいし今ドキ、メモ帳片手に徘徊というのもいただけない。デジカメで看板をおさえるにも、怖いお兄さんが店先にいてチャンスを逃したり…。そこで使えるのが写メールです。立ち止まってメールを打つそぶりで瞬時にパシャリ。電話番号も、メモる代わりに会社のPC宛に送っておけばそのままデスクへの報告用に。極度の方向音痴ゆえ路地裏に迷い込んでおじさんに声をかけられそうになった時には、電話をかけるふりで即座に撃退。ああ、なんと便利な時代の名器! 現在編集スタッフ内で最年少のわりには時流に乗り遅れがち(…)な私ですが、ここでは携帯を120%活用し尽くしました。あ、ついでに今度買い替えるときは、ナビ付きのGPSケータイにしよっかな…。(篠)