|
2006年9月
「食べられるものならなんでも食べる」という無節操な信条を掲げる私ですが、ひとつだけ“食べなくて済むなら食べたくない”と長年、適度な距離を置いてきた一品がありました。それが「焼きそば」。
脳裏に蘇るは小学生時代の、土曜日の昼下がり。近所のどこからか漂ってくるソースの香り。家に帰ると「あっウチや、また焼きそばか…」。夏場のそうめんと並び、焼きそばはわが思い出の中で、手抜き料理の代名詞以外の何者でもなく、ただうんざりさせられるだけの存在でありました。
そんな私の一方的な思い込みが、今回の第2特集「実はみーんな、焼きそばが好き!」を担当して見事、覆されました。焼きそばは決して、手抜き料理なんかではないのです。少なくとも、お店で食べる焼きそばは。
ある店の焼きそば作りは、唯一の具である白髪ネギを開店の3時間前に切るところから始まります。これは、「すぐに食べればちょと辛い、水にさらせば味が落ちる」という微妙な加減から、ご主人が編み出した独自の法則。この絶妙のパラパラ白髪ネギがそばに絡んで、さっぱりといくらでも食べられる焼きそばになるのです。またある店には、子どもの頃食べた焼きそばの記憶を頼りに、電話帳をめくって当時の製麺屋さんを探し出し、その味を再現したという情熱の一品も。そこにはすでに、味云々を超えた焼きそばへの愛情があり、ご主人の思い出話を聞く私のビールもついつい、必要以上に進んでしまうのでした。また別の店では、焼きそばに加える山盛りのクレソンを毎週、ご主人自ら鎌を片手に刈りに行くと言います。「刈ればまた伸びてくる。ワシと共栄共存よ」と笑う、この道40年のご主人。その豪快な焼きそばの味は、私の舌にしっかり刻み込まれたのです。1日3食焼きそばが続き、「焼きそばの食べ過ぎで、鼻から焼きそば出そう!」などと下品なグチをこぼしつつもついにリタイアせずに済んだのは、出合った焼きそばたちの個性の豊かさ、その裏話の面白さのおかげでありました。
そんな焼きそば特集を終えて数週間。「なんか、焼きそば食べたいなぁ…」。いつもの残業時間、夢遊病者のようにフラフラと近所の鉄板焼屋へ向かう自分がいました。一人、カウンターに座り「焼きそばとビール」。また一段とオッサンへ近づくことは分かっていながら、抑えきれない衝動に突き動かされる私。海鮮バター焼きを突っつき、焼きそばをズルズル。ああ、なんという至福…。焼きそばなんて祭りの食いもんだよ、と軽んじる向きは、私の有様を見るがいい。その魔力に一度ハマったら、抜けられなくなること請け合いです。すでに編集部でも、「焼きそば特集、読むと無性に食べたくなるね!」との声が続出。さあ皆さん、今夜は個性派焼きそばで一杯いかが? (篠)
|